あなたを束縛する愛、自由にする愛。ー『リズと青い鳥』感想

   この作品をまったく初見で観る友人がいたとして、予備知識を授けるならどう説明するだろうか。武田綾乃氏の原作を読んでから行くべきとか、『響け!ユーフォニアム』のアニメを全編観てから行くべきとか、三者三様十人十色である。もし私ならば傘木希美と鎧塚みぞれ、この二人の人物像だけ教えてあとは視聴者の審判に委ねたい。

 

   京都アニメーションと日本が誇る女性監督、山田尚子がメガホンを取り制作された『リズと青い鳥』を観に行きました。まごう事なき傑作です。

この記事はネタバレを含みます。未視聴の方は、是非劇場ならではの空気感を味わってから読んでいただきたいと思います。

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©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 

   このフィルムは吹奏楽部でトップクラスの技量を持つオーボエ奏者の鎧塚みぞれと、吹奏楽部の人気者でフルート奏者の傘木希美、ふたりの物語だ。お互いの歩み、テンポが非常に大きな意味を持つ。それは時に噛み合い、時にずれる。

   さらに監督は脚本と映像に映る空気感を同等の価値を持って接してる。歩く、止まる、深呼吸する、楽器を組み立てる、鍵を開ける、楽器に息を通す、音と音の間に出る微妙な間合いをリアルに表現し、会話間で言い淀んだり、息が詰まるなどサイレントな描写も存在感を醸し出している。

 

   この作品のテーマが羨望、絶望、それらを包み込む愛なのだとしたら、みぞれは見離されない為に希美という檻に束縛され続けていた。希美は私にのっての特別と言ったみぞれ、しかし希美は慕ってくれていたみぞれに自分は特別なんかじゃない、もっと広い世界があると諭す。ーみぞれのオーボエが好き、この言葉がふたりを飛び立たせた。束縛されていた青い鳥は誰にも当てはまるのだ。

 

   山田尚子監督がこの作品は息を潜めてじっとふたりを観察する映画だと言った。つまり彼女たちの動きそのものが作品世界の台詞でありBGMとなる。私たちはふたりの物語の傍観者にしかなり得ないが、自らの呼吸さえも邪魔と思える綿密な音響と映像美、このハッピーエンドに満足できるなら充分だ。

 

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